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アラサー400mスプリンターの挑戦

400mに魅了されたアラサースプリンターのつぶやき集

400mトレーニング論:乳酸を科学する

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乳酸は疲労物質ではない!

400mを全力疾走すると、脚に乳酸が溜まって、いわゆる「ケツワレ」状態になりますよね?

このケツワレ状態があまりにも苦しいため、ながらく乳酸は「疲労物質」として悪者扱いされてきました。

しかし、最新の研究で、実は乳酸は「エネルギー源」ということが判明し、特に400mや800mという競技を行っている選手に関しては、この乳酸とどう付き合っていくかが競技パフォーマンス向上の大きな要因となります。

今回はそんな「ちょっと扱いづらいけど、競技力向上のためにとても大事」な乳酸について、その発生過程や身体の中での利用のされ方について、科学的な目線から解説していきたいと思います。

 

※今回の記事は↓の本を大いに参考にさせていただいています。

乳酸をどう活かすか 2

乳酸をどう活かすか 2

 

 

乳酸はどのような場合に、どのようにして生成されるのか?

僕たち人間が身体を動かす時、どんな些細な運動でも必ず身体の中で「代謝」という反応が起こっています。

代謝とは、身体の中で何らかの科学反応が起こることによって「エネルギー」が生み出されることです。

代謝によって発生したエネルギーを利用して筋肉を動かすことで「運動」という行為が成り立っているのですが、代謝は運動強度によってその反応の仕方が変わってきます。

そこで、次からは運動強度の違いによる代謝反応の違いについて解説していきたいと思います。

 

1.高強度の運動で発生するATP-CP代謝

陸上種目で言うと、100mや跳躍、投擲競技などがこのカテゴリに含まれます。

強度が高く、素早い筋肉の動きが必要な競技は、一瞬で爆発的なエネルギーが必要となります。

そのため、身体の中では「より早く大きなエネルギーになるもの」を代謝しようとします。

その時に起きる代謝がこのATP-CP代謝です。

この代謝が起きる時は、筋肉の中に貯蔵されている「クレアチンリン酸(CP)」というものを代謝に利用しています。

このクレアチンリン酸、とても素早く高エネルギーを発生させてくれるのですが、筋肉内に貯蔵しておける量はわずかで、大体6〜8秒程度で使い切ってしまいます。

そのため、100mくらいの距離ならほとんどこのATP-CP代謝だけで完結できてしまうのですが、それ以上の距離になるとどうしてもこれ以外の代謝を利用してエネルギーを確保する必要が出てきます。

そこで、次に登場するのが「解糖系代謝」です。

 

2.中強度の運動で発生する解糖系代謝

筋内のクレアチンリン酸がなくなってしまった場合、もしくは、中強度の運動を行った場合は、筋内に貯蔵されている「筋グリコーゲン」というものを利用して代謝を行います。

この筋グリコーゲンを利用した代謝を「解糖系代謝」と呼びます。

解糖系代謝で筋グリコーゲンはどんどん小さく分解されていき、ある時点で「ピルビン酸」という化学物質まで分解されていきますが、このピルビン酸まで分解される過程でエネルギーを生み出してくれるのです。

解糖系代謝はATP-CP代謝ほど素早くエネルギーを発生させることはできませんが、次に紹介する「TCA回路による代謝」よりは早くエネルギーを発生させてくれます。

筋グリコーゲンも貯蔵されている量には限界があるので、持続可能時間にも限界がありますが、その時間は60秒〜90秒位という研究結果が出ており、まさに400mという競技にうってつけの代謝だと言えますね。

しかし、問題はここからです。

解糖系代謝で発生したピルビン酸は、本来、ミトコンドリア内に入って「TCA回路による代謝」で再びエネルギー源となってくれます。

しかし、中強度の運動を行い続けると、ミトコンドリア内に移動するピルビン酸よりも代謝により発生するピルビン酸のほうが多くなり、ピルビン酸が飽和状態になってしまいます。

ピルビン酸は化学物質としては非常に不安定なので、溢れてしまった分は「乳酸」に変化して血液中に放出されて体中を巡るようになるのですが、乳酸は酸性の化学物質なので、血液中にたくさん流れてしまうことで普段「中性」である身体が「酸性」に傾いてしまいます。

身体は酸性化すると疲労感を感じるようになり、酸性化することで筋肉も上手く動かせなくなってくると言われています。

これが、長らく乳酸が「疲労物質」と言われていて来た原因です。

 

あれ?ここまで来て、結局乳酸は悪者っていう結論になるの?

と、思われた方も多いかと思いますが、ご安心ください。

乳酸の有効性についてはこの後のパートで解説します。

 

3.低強度の運動で発生するTCA回路による代謝

主に普段の生活や長距離走などで利用されている代謝です。

このTCA回路による代謝は細胞内のミトコンドリアで行われているのですが、これを稼働させるには大量の酸素が必要になってきます。

そのため、TCA回路は他の代謝に比べて多くのエネルギーを効率よく発生させることができますが、他の代謝に比べて代謝が発生するまで少し時間がかかってしまいます。

なので、瞬発的な運動時には利用されにくく、ゆっくりした運動時に利用されやすい代謝となります。

そして、このTCA回路最大の特徴は様々な化学物質を利用して代謝を行うという点です。

例えば、解糖系代謝で発生したピルビン酸もTCA回路に組み込んでエネルギーとして再利用できるし、脂肪もエネルギー源として代謝してくれます。

他の代謝では脂肪をエネルギー源として利用することはないので、ダイエットに有酸素運動が推奨されるのはこういう理由があるからなのです。

そして、実はTCA回路は乳酸もエネルギー源として代謝してくれます。

解糖系代謝で溢れたピルビン酸は、乳酸に変化して血液中に放出されて全身をめぐります。

放出された乳酸は全身をめぐり、エネルギーが必要となっている細胞近くまでいった後、最終的に細胞内のミトコンドリアに取り込まれてエネルギー源として代謝されます。

つまり、乳酸は解糖系代謝によって発生した「不要な疲労物質」ではなく、後にキチンと再利用されているれっきとしたエネルギー源なのです。

 

各代謝は単独で動くものではない!

ここまで運動強度の違いによる代謝の反応の違いについて解説してきました。

しかし、実際の運動中は、運動強度に関わらず複数の代謝が同時に稼働していると考えられます。

例えば、400mにおいて最初の50mくらいまではATP-CP代謝だけで運動が行われている可能性が高いですが、そこを過ぎてくるとATP-CP代謝を行いつつ、足りないエネルギー分を解糖系代謝で補っているだろうし、ラスト100mは、解糖系代謝でエネルギーを限界まで絞り出しつつ、TCA回路で可能な限りの乳酸をエネルギー源として再利用している、という状況になっていると思われます。

これらの代謝の基本を踏まえた上で、僕たち400m選手はどのように代謝を利用できるようにしていくのか、また、より効率よく代謝を利用できるようにトレーニングしていくのか、ということを考えていく必要があります。

とくに、400mという競技では解糖系代謝による運動が大部分を占めているため、解糖系代謝によって発生する乳酸をどのように処理していくかがとても大切になってきます。

次回の記事では、この基本的な代謝の仕組みを踏まえた上で、どのようなトレーニングプランを立てていくべきかということを考えてみたいと思います。

 

また、記事の冒頭にも書きましたが、今回は八田秀雄さんの「乳酸をどう活かすか2」という本を大いに参考にさせていただいています。

この本では、乳酸に関する様々な研究内容について書かれており、400m選手がトレーニングプランを考えるあたって有益な知識が数多く載っています。

専門書としては値段も安く、ページ数もそこまで多くないので非常に読みやすい良書です。

是非こちらの本も読んで、乳酸に関する知識の深掘りをしてみてください。

 

乳酸をどう活かすか 2

乳酸をどう活かすか 2