アラサー400mスプリンターの挑戦

400mに魅了されたアラサースプリンターのつぶやき集

【練習参考動画】バンニーキルク選手のトレーニング

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陸上界の新たなスター、ウェイド・バンニーキルク!

リオオリンピックでマイケル・ジョンソンの永久不滅と言われた世界記録を破り、43秒03という驚異的な世界記録で金メダルを取った南アフリカ共和国の「ウェイド・バンニーキルク」選手。

日本のテレビではあまり大きく取り上げられませんでしたが、陸上関係者(特に400mスプリンターの皆さん)の間では、まさに衝撃的ニュースとなりました。

個人的にはウサイン・ボルト選手の9秒58並に衝撃の記録だったと感じているのですが、いかがでしょうか?

これだけの記録を出した選手なので、皆さんも彼がどのような練習をしているかは気になりますよね?

本日はそんなバンニーキルク選手の練習風景の動画を発見したので、紹介と解説を行いたいと思います。

超レア!バンニーキルク選手のトレーニング動画! 

さっそく動画の紹介から。

まずはこちらを御覧ください。


Wayde Van Niekerk Training

 

こちらの動画はバンニーキルク選手本人のインスタグラムの動画や現地テレビで放映された動画などをつなぎ合わせたまとめ動画になっています。

途中ウサイン・ボルト選手と練習している風景などもあり、かなり貴重な動画資料といえるでしょう。

自身初の100m9秒台を出したレースも入ってますね。

たった2分弱の動画ですが、情報量盛りだくさんのかなり見ごたえのある動画になっています。

 

バンニーキルク選手の速さの秘密その1 〜驚異的な切り返し技術〜

ここからはこの動画で発見したバンニーキルク選手の速さの秘密に関して、僕なりの解説を行っていきたいと思います。

まず、一番初めに気になったのは「驚異的な脚の切り返しの速さ」です。

動画で言うと7秒〜15秒あたり、48秒〜54秒あたりの映像を見てもらうとわかりやすいと思います。

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まずは最初の出だし。

股関節、肩甲骨など、身体の中心部分から大きく身体を動かし、とても低く鋭利な角度で前に大きく飛び出しています。

 

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飛び出してから一歩目の着地。

この時点で後ろの支持脚がきっちり前方に引きつけられており、接地の瞬間にしっかり重心が腰に乗ってきているのが確認できます。

ここでしっかり支持脚を前に持ってこれていないと歩幅が大きいだけでブレーキのかかる走りになりますが、バンニーキルク選手はそういった局面がなく、本当に綺麗に重心を前に移動できています。

 

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二歩目に向かう飛び出し。

この時点でも姿勢は低く保たれており、その上でしっかり地面を押せています。

身体の使い方も大きく、前足の膝の飛び出し方向もしっかり進行方向に向けられていてさらに大きく加速していっています。

 

そして何と言ってもバンニーキルク選手のすごいところは、この三つの局面を繋げて動画で見た時の「切り返しの速さ」です。

例えば、スタートの際によく現場で指導される「地面をしっかり押す」というアドバイスがありますよね?

この動画を見る限り、バンニーキルク選手もしっかり地面を押せています。

しかし、しっかり地面を押せているにも関わらず、バンニーキルク選手は地面と足の接地時間が一般の人より圧倒的に短いのです。

 

これはどういうことか?

 

考えられるのは、バンニーキルク選手自体は「地面をしっかり押す」ということをおそらくあまり意識しておらず、支持脚を素早く前に運んで重心を移動させる、つまり切り返しの速さを主に意識しているからだと思われます。

実際にやってみるとわかるのですが、前足が地面を捉える瞬間に素早く支持脚を前に持ってくるように動かすと、普通に「地面を押す」という意識を持って動いたときよりも素早くバネ感とパワーを感じながら地面を押せるはずです。

しかも、地面を押すという意識を持つと、どうしても脚が後ろに流れがちになりますが、切り返し動作主体だとワンテンポ早く脚を前に持っていく準備ができているので、次の走動作に無理なく移っていくことが可能なのです。

 

バンニーキルク選手が切り返し動作を大切にしていると感じられる場面は他にもあり、動画で言うと45秒〜47秒あたりで登場するチューブを使用したドリルが、この切り返し動作を筋肉に覚えさせるための手段として使われていると思われます。

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バンニーキルク選手の速さの秘密その2 〜緻密なレース戦略〜

バンニーキルク選手は今回400mで世界記録を出しましたが、元々は200mを主な戦場とするショートスプリンターでした。

世界の他の400m選手と比べても、短い距離でのPB記録が圧倒的に速く、世界で唯一9秒台、19秒台、43秒台を達成した選手です。

これは2016年現在現役である選手だけが対象でなく、これまでの陸上史の中で見ても彼しかなし得ていない大偉業となります。

あのマイケル・ジョンソンですら100m9秒台は持っていませんし、世界最速のボルトですらなし得ていないことです。

それだけ圧倒的優位なスピードを持っているバンニーキルク選手ですが、ただ短い距離が速いだけでも43秒03という記録を出すことはできません。

これを達成できた背景には、彼の緻密なレースプランがあったからだと考えています。

先程の動画の7秒〜15秒のところをもう一度よく見てみて下さい。

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注目すべき点は手のひらの形です。

最初の飛び出しの時点では手のひらの形を「パー」にして腕を前後に大きく振れるように意識されています。しかし…

 

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スピードに乗ってからは手のひらの形が「グー」になっています。

もっと正確に言うと「軽い握りこぶし」です。

 

意識している方は意識していると思いますが、手のひらの形が「パー」であるか「グー」であるかで、腕振りの際のエネルギー消費量が全然違います。

「パー」の方が大きく腕を動かす意識をしやすいため、特に100m選手に多く、この手のひらの形の選手が見受けられます。

ただし、手のひらの先まで力が入ってしまいがちで、腕振り自体のエネルギー消費量が大きく乳酸が出やすいため、あまりエコな走りにはなりません。

(例:タイソン・ゲイ選手、桐生祥秀選手など)

 

一方、「グー」または「軽い握りこぶし」だと、大きく推進力のある腕振りはできませんが、コンパクトに腕を振る意識がしやすく省エネで走ることができるため、400m選手や長距離選手に多く、この手のひらの形の選手が見受けられます。

(長距離選手に関しては「パー」で走っている選手は誰1人としていないでしょう)

 

そして、バンニーキルク選手ですが、彼は上記2つをかけ合わせた「ハイブリッド型」の選手だと思われます。


Rio Replay: Men's 400m Sprint Final

 

こちらはリオオリンピックのレース動画です。

バンニーキルク選手は9レーンという不利なレーンでのレースの中、序盤から自身のスピードを活かして積極的に攻めていきます。

300m地点では一度メリット選手やキラニ選手と並びかけますが、前半あれだけ飛ばしたにも関わらず、ラスト100mで他の選手をさらに引き離していきます。

ラスト100m、バンニーキルク選手を追うメリット選手とキラニ選手は一生懸命腕を大きく振って前に進もうとしますが、それが逆に力みとなり、思ったように前に進んでいません。

一方のバンニーキルク選手、ラスト100mの粘る場面になっても腕の振り方はコンパクトなまま、リズミカルにうまく重心を移動させて大きく前に進んでいっています。

最初飛ばして後半もスピードが落ちない、非常に理想的なレース展開ですね。

 

このレース展開に関して、バンニーキルク選手はかなり緻密にレースプランを研究したと思われます。

スピード型400m選手らしい、実に理想的なレース展開。

このレースプランを普段の練習からしっかり意識しているため、前半はスピード型の「パー」の腕振り、加速局面を過ぎてからはエコに走ることができる「グー」の腕振りを自然に行っているのだと思われます。

非常に小さな違いですが、こういった小さな違いを普段から意識しているからこそ、オリンピック本番であれだけ素晴らしいレースを行うことができるのでしょう。

 

まとめ

ここまで僕なりのバンニーキルク選手の速さの秘密に関して解説してみました。

「他にもこんな秘密があるのではないか?」、「この解説は少し違うのではないか?」等、人によって様々な意見があるかと思いますので、皆さんもこの動画を何度も見て、世界一流の走りを研究してみて下さい。